
・安全配慮義務違反ってどんな法律?
・罰則や賠償責任はどのようにして決まるのか知りたい。十分に配慮していれば、違反は軽減されるの?
そんな疑問に答える形で記事を作成しています。
この記事の内容
・労働者を守るためのルール「安全配慮義務違反」がどんなものかわかる
・事業者側が安全配慮義務違反とならないようにはどうすべきかがわかる
安全配慮義務とは何か?またその歴史は?
安全配慮義務とは、「労働者がその生命や体などの安全を確保して労働できるように、事業者が配慮すべき義務」のことです。
事業者は、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っています。
この労働安全衛生法は予想される労働災害に対する危険防止措置を定めて、事業者に罰則を持って強制しています。
なお10年の時効があります。
たとえば51歳で労働災害を負い、60歳の定年になり退社したときに安全配慮義務違反として、企業を訴えにかかる事例もありますのでご注意ください。
安全配慮義務違反による責任は、労働災害という結果が発生したからという「結果責任」ではなく、災害防止のための手段を尽くすという「予防責任」なのです。
この「予防責任」というのが違反か否かのポイントになってきますので、事例も交えて解説していきますね。
安全配慮義務違反が認められた初期の事例
判例;昭和59年4月10日最高裁
- 宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事例で、会社に安全配慮義務の違反にもとづく損害賠償責任があるとされた。
- 雇い主 安全配慮義務の不履行
この事例での判決文の一部を抜粋します。
以下のとおり、昭和後期には明確に安全配慮義務が明文化されているのですね。
判例(昭和 59 年 4 月 10 日最高裁3小判決、川義事件)
「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使 用者の供給する施設、器具等を用いて労務の提供を行うものである。
使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を労働者が使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務 『安全配慮義務』を負っている。」
労働安全衛生法における管理者の責任とは?
安全配慮義務違反になりうるものとして、おもに以下の3つがあります。
- 作業施設や機械などの安全対策が必要な場所に置いて点検や作業環境の改善などの安全対策を行わなかった場合
- 労働者に対する健康診断を行わなかった場合
- 過重労働が行われていることを知りながら必要な対策を取らなかった場合
労働災害防止の配慮
災害防止責任の主体は労働契約法第5条において「事業者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ、労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。
法律上の危険防止に必要な実際上の措置を講じるのは、権限を授権された「第一線の管理・監督者」となり、そこで「行為者を罰するほか、法人又は人に対しても刑を科す」という労安法第122条(両罰規定)もあります。
つまりその組織の職長や交代勤務の班長や社長・会社に対しての責任を問う法律です。
労働者の健康面の配慮
労働者の健康診断の結果にもとづく事後措置の実施やも安全配慮義務として労働安全衛生法に規定されています。
また、労働者の心の健康対策も同様です。
労働者が心の健康を害することが予測可能であったにもかかわらず、事業者が必要な措置を取らなかった場合には安全配慮義務違反とされることがあります。
損害賠償責任が認められた判例は?
いくつかの判例を書いていきます。
いずれも労働災害を未然に防ぐための措置を講じて労働者を危険から保護していれば、違反とはならなかった事例ばかりです。
ここは強調する点ですが、安全配慮義務とは「事業者の予防責任」なのです。
損害賠償責任が認められた凡例
- 石綿セメントメーカーの工場で労働者が石綿を吸い込み、のちに悪性中皮腫を患い死亡
→会社がじん肺防止対策など必要な措置を怠った点で安全配慮義務違反
- 宿直勤務中の労働者が外部からの侵入者により殺傷された事件
→侵入者防止のための物的設備を施す措置や人員を増やすなどの措置をとらなかった点で安全配慮義務違反
- 高所において労働者が2階から転落し、頭部を強打して死亡
→転落防止が必要な場所に柵の設置を怠った上に、ヘルメットの顎ひもをしっかり締めておくことも教育できていなかった点で安全配慮義務違反
労働者側の過失が考慮される場合(過失相殺)
では事業者側がすべての責任を負わなくてはならないのか、というとそうではありません。
労働災害が発生したときに、労働者が必要な措置を順守していなかった場合には、労働者に支払われる賠償額の減額の可能性があるのです。
たとえば、高所では安全帯を掛けて転落防止を図るルールを規定し、安全帯フックを掛ける環境も十分整えているにも関わらず、安全帯を掛けなかった、などの場合です。
法において、以下の規定がなされています。
第4条
「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害防止に関する措置に協力するように努めなければならない」
第26条
「労働者は、事業者が講ずべき措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。」
労働者の義務のポイント
労働者が負う義務のポイントです。
労働者が負う義務のポイント
1.労働者が行った不安全行動の責任分は、損害賠償から差し引かれる
2.ある人が行っている行動が、危険性の高い行動であればあるだけ安全配慮義務は強く(重く)高度なものになる。
3.自転車の運転よりは自動車の方が危険な行為であり、自動車の運転者は強く(重く)高度な安全配慮義務を負担することになる。 そこで、国もこの
危険行為を行うことを野放しにすることをせず(高度な安全配慮義務を履行させるために)、免許制度を採用し、一種の安全教育を行っている
したがって罰則はないものの、賠償額の減額などに繋がるため、労働者へのルール順守の必要性を説明し、共有しておくことが大切です。

過失相殺が認められた事例
実際に過失相殺が認められた事例を1つ示します。
判例 平成11年10月20日東京高裁
- フォークリフトの運転をしていたAが、コンクリート柱と同リフトの雨よけ用鉄枠との間に顔面を挟まれ、前頭骨等を骨折した事案。
- 雇い主B社 安全配慮義務の不履行
- 損害賠償額 1000万円
- 過失相殺 50%
採用間もないAがヘルメットなしで運転してしまったが、安全の配慮や保護具の着用などについて雇い主B社に指導する義務があったということです。
しかし不安全行動をしてしまったAにも「過失がある」という判決になってしまうのですね。
事業者はどんな措置をとるべきか?
事業者は、労働者が健康で安全に働くことができる快適な職場環境を形成するために、必要な措置を講じる必要があります。
近年では労働者の高齢化も進んでいるため、おおむね50歳以上の就業について適正に配慮するように規定しています。
加齢による心身機能低下、新しい技術や機械設備への対応方法などに関して、適正な配慮をするように努めなくてはなりません。

またそもそも労働災害を防いでいく風土つくりのために、危険予知力や指差し呼称の能力を高めていくことが重要です。
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まとめ
今回は「安全配慮義務違反とは?罰則や過失相殺を含む3つの判例付きで解説」について書いてきました。
労働災害を発生させないための措置を講じていく必要性を法律として記述すると一見難しい話になりますが、労働者が安全に働ける環境をつくりなさい、というシンプルな考え方です。
普段なかなかできていない法的な話を職場の仲間と共有し、安全への感度を高めていきましょう。
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