
・どうして火災・爆発事故が起こってしまうの?
・燃焼や爆発にいたる要因って何?
「燃える物質を扱っているから」と単純にとらえていませんか。
また事故では安全管理上の側面(ヒューマンエラー)が間接的に関わりますが、本記事では直接的な要因について解説していきます。
化学工場で取り扱う原料・製品は主に可燃性の物質であることが多いです。
その可燃性物質を取り扱う上での注意点を理解できるはずです。
また化学工場を知らない人でもその危険性を知ることができるようまとめました。
ぜひ最後までお付き合いください。
燃焼・爆発の三要素とその定義
一般に空気中、場合により酸素中で燃焼するガスを可燃性ガスと呼びます。
このとき空気や酸素は燃焼・爆発を支える働きがあるので支燃性ガスと呼びます。
そこで可燃性ガス、支燃性ガスおよび発火源を「燃焼・爆発の三要素」と呼んでいます。
この3つのうち1つでも除去すれば、基本的に燃焼・爆発は起こりません。
燃焼とは?
可燃性物質が支燃性物質により酸化反応を起こし、その際の発熱量が系外に排出される放熱量を上回る結果、系内の温度が上昇し火炎が発生して熱と光を発する現象
爆発とは?
一般に急激な圧力の発生または解放によってガスが激しく音を立てて膨張する現象
可燃性ガス・可燃性液体の存在
空気中の可燃性ガスの組成が高すぎたり、低すぎたりするとある濃度のところで爆発が起こらなくなります。
つまり爆発が起きるためには可燃性ガスがある濃度範囲の中にある必要があります。
この濃度範囲を爆発範囲と呼び、この範囲の限界濃度を爆発限界と言います。
なお爆発範囲は、温度・圧力・不活性ガス(窒素)などに影響をうけます。
ガス名 | 化学式 | 爆発下限界(vol%) | 爆発上限界(vol%) |
---|---|---|---|
メタン | CH4 | 5.0 | 15.0 |
エタン | C2H6 | 3.0 | 12.5 |
プロパン | C3H8 | 2.1 | 9.5 |
ブタン | C4H10 | 1.8 | 8.4 |
ペンタン | C5H12 | 1.5 | 7.8 |
ヘキサン | C6H14 | 1.1 | 7.5 |
ヘプタン | C7H16 | 1.05 | 6.7 |
エチレン | C2H4 | 2.7 | 36 |
プロピレン | C3H6 | 2.0 | 11.1 |
1-ブテン | C4H8 | 1.6 | 10 |
1,3-ブタジエン | C4H6 | 2.0 | 12 |
メタノール | CH3OH | 6.0 | 36 |
水素 | H2 | 4.0 | 60 |
塩化ビニル | C2H3Cl | 3.6 | 33 |
アンモニア | NH3 | 15 | 28 |
一方、可燃性液体が空気中で燃焼する場合には、液面から気化した蒸気が空気と混合し、可燃性混合ガスとなって燃焼します。
燃焼すると液温が上がり、可燃性ガスの形成が持続します。
発火源となるものの存在
可燃性混合ガスを発火させるものには様々なものがありますが、実際に化学工場の事故で起こりうるものを示します。
- 裸火
溶接や溶断作業を行なっている場所で、可燃性ガスを流出させるとガスが拡散して溶接の炎に着火し、そこで発火を起こします。
空気よりも重いプロパンガスなどは漏洩すると地面に沿って拡散するので、発火源から離れていても発火する恐れがあります。
- 高温物質
高温に熱された固体表面は可燃性混合ガスの発火源となります。
固体表面からの伝熱により、可燃性混合ガスの温度が上昇して発火に至るのです。
固体表面だけでなく、加熱された空気などの高温ガスも発火源となりえます。
- 静電気
液体や固体が流動すると静電気が発生し、その表面に蓄積します。
2つの物体が接触した際に帯電量が増したのち、放電を起こすと可燃性混合ガスの発火に十分なエネルギーとなります。
配管内を気体だけが流れていても静電気の発生はほとんど見られません。
しかし空気中で粉体や液滴がガスと同伴する場合には、静電気が発生します。
たとえば、水素ガスが漏れて鉄錆やホコリとともに噴出した場合、その放電火花によって発火することが知られています。
基本的には、静電気を逃がす措置(アース)を配管や身に付けるものに対して行います。
- 電気火花
電気火花は、電気回路の断線、接触不良、短絡、漏電などの際に発生するものです。
電気火花により発生する放電エネルギーが可燃性混合ガスに与えられ、反応熱で温度が上がり、発火に至ります。
- その他
断熱圧縮: ガスを急速に圧縮すると、ガスの温度が上昇したときに発火する
衝撃波: ガスが高速で噴出されたときに衝撃波による圧縮で、ガスの温度が上がり発火する
爆発性物質の存在
爆発性物質とは、それ自身が熱的に不安定な物質であり、熱、光、摩擦、衝撃などにより急速に分解し高温・高圧を発生する物質のことです。
不安定物質または自己反応性物質とも呼びます。
低温で反応を開始しして発熱し、反応が加速して発火を起こす危険性が高いです。
爆発性物質の例を以下に示します。
- アセチレン化合物
- アゾ化合物
- トリアゼン化合物およびテトラゾール類
- アジ化物
- 金属窒化物
- ニトロ化合物
- 硝酸エステル
- 金属雷酸塩
- 過酸化物
その他の要因
その他にも固体での爆発や、反応による反応暴走など数多く危険な状況が存在します。
- 粉じん爆発
固体でも爆発は起こります。
石炭粒子や金属粉など固体粒子径が小さくなると、表面積が大きくなり反応が加速しガス爆発と同じような現象が起きます。
これを粉じん爆発と呼びます。
一般に500μm以下の微粒子になると粉じん爆発を起こしやすいと言われていますが、分散性がよく浮遊しやすいほうが粉じん爆発に至りやすいです。
- 危険性の高い反応
発熱量が大きい反応の場合、その冷却能力が不足した場合、反応の暴走が起こる危険性が高いです。
危険性が高い反応
- 酸化反応
- 重合反応
- 付加反応
- 水素化反応
- 縮合反応
- 混触危険性
2種類以上の物質が混触(混合・接触)することにより発熱・発火したり、爆発性混合物を形成する場合があります。
混触危険性の組み合わせ例
- 酸化性物質と可燃性物質
- 過酸化水素と金属酸化物
- ハロゲンとアジド
- ハロゲンとアミン
- アンモニアと金属
- アジ化ナトリウムと金属
- 有機ハロゲン化物と金属
- アセチレンと金属
- 強酸との混合により発火・爆発する物質
火災・爆発の時には有害物質にも注意
工場で取り扱うガスや蒸気が大気中に漏えいした場合には、その有害性に着目することも大切です。
異常時や事故時には基本的には現場から退避することが重要ですが、万が一のための知識も身につけておきましょう。
米国産業衛生専門間会議(ACGIH)では、毎年許容濃度を定めています。
許容濃度には以下の定義がありますので、職場の取扱物質の値を把握し整理しておきましょう。
TLV-TWA(時間加重平均許容濃度):1日8時間、週40時間の平常作業で、繰り返し暴露したとしても健康障害を招かないと考えられる濃度の時間加重平均値
TLV-STEL(短時間暴露許容濃度):15分間以内の暴露で、暴露の間隔が1時間以上、1日4回以下で、毎日の暴露がTLV-TWA以下であれば作業者に大きな影響を及ぼさない濃度
化学物質の許容濃度値を調べる場合には、以下の中災防のホームページが便利です。どうぞ参考にしてください。
外部リンク中災防サイト│ ACGIH(アメリカ合衆国産業衛生専門官会議)化学物質の許容濃度値

毎年更新されるので、最新情報を入手していきましょう。
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