酸素欠乏危険作業主任者の役割と実務上のポイントについてまとめました。

・資格はとったけど、実際に仕事で活かせと言われても経験が無くとまどってしまうな。
・しばらくぶりの現場復帰で酸欠作業に従事するけど、簡単にコツをおさらいできるといいなあ。
と困っている方も多いと思います。
現場の作業環境の管理を一歩間違えば、人命にも関わります。
しかも法定のテキストは分厚くてポイントを絞りづらいですよね。
そこで今回、有資格者かつ現場で実際に酸欠作業の管理経験のあるわたしがポイントをまとめました。
酸欠作業主任者の職務は、職場で酸素欠乏症や硫化水素中毒を起こさないようにすることです。
法令で求められること、実際に人の命を預かるために覚えておくべきこと、をまとめました。
この記事でわかること
- 酸欠作業主任者の役割
- 酸欠作業主任者の職務内容
必要な部分をピックアップしながら読んで頂いたり、業務前におさらいするために使っていただけるとよいかと思います。
最後までお付き合いください!
酸欠作業主任者の役割
酸欠作業主任者の仕事は、同僚の安全に直結する命を預かる仕事です。
特に酸素濃度や硫化水素濃度の測定については、安全な環境で仕事をするための責務ですね。
「自分自身を含めて、命と健康を最優先にして判断する」という考えのもと行動することが求められます。
酸欠則で規定されている作業主任者の職務はおおざっぱに4つです。
作業主任者の職務
- 労働者が酸欠にならないように作業方法を決定し指揮する
- 作業開始前、作業再開前、異常が見られた時に酸素濃度や硫化水素濃度を測定する
- 測定器具、換気装置、空気呼吸器等の器具や設備を天然する。
- 空気呼吸器等の使用状況を監視する
法律(労働安全衛生法)が求めること
作業主任者の規則は労働安全衛生法(酸素欠乏症等防止規則)で規定されています。
ポイント
この法律は、…職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
労安法は、労働者の安全と衛生を確保することを目的とした法律です。
ポイント
事業者は、…労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、免許を受けた者または…技能講習を修了した者のうちから、伝承当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
作業主任者を選任して、作業の指揮をとらせることを求めています。
ポイント
次の各号(省略)のいずれかに該当する者は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
罰則を適用しなければならないほどの悪質な法令違反があれば、裁判所の判断を下します。

酸欠危険作業とはどんな環境か
人が生きるために酸素は欠かせません。人は酸素濃度21%の中で生きています。
酸欠の状態とは、「作業場が人が生きるために必要な環境になっていない」ということです。
空気中の酸素濃度 | 主な酸欠の症状 |
---|---|
12~16% | 頭痛、耳鳴り、吐き気、脈拍増加、集中力低下 |
9~14% | 頭痛、耳鳴り、吐き気、強い疲労感、脱力感、意識もうろう、墜落の危険 |
6~10% | 吐き気、動けない、虚脱、幻覚、けいれん、死の危険 |
6%以下 | 失神、けいれん、死亡 |
無防備なままの環境で働くことのないように、作業環境を確認し、作業を指揮することが作業主任者の仕事です。
法令上は18%以上の酸素濃度であれば作業許可ができます。しかし通常21%の状態からなぜ下がっているのかを説明できない限りは作業許可を出すべきではありません。
関係者と相談していきましょう。
酸欠危険場所の例
酸欠症や硫化水素中毒が発生する原因をまとめました。
有機物・生物の存在下では酸素や硫化水素濃度が変わっていきますので、要注意ですね。
酸欠状態となる要因
- 微生物や植物・野菜などの呼吸で酸素が消費される
- 金属、油などが酸化して酸素がなくなる
- 生物などが腐敗するときに酸素が消費される
- 二酸化炭素や不活性気体が充満して酸素がない状態になる
- 硫黄分を含んだ有機物(し尿、動植物、魚介類、木材、ゴミ、微生物など)が微生物によって分解されて硫化水素が発生する
特に注意すべき場所
特に注意すべき場所もあります。
酸欠の注意が特に必要な場所
- 酸欠の空気が吹き出す場所
- 酸素が失われていく場所
- 酸欠のガスが充満していく場所
- 空気が希薄化される場所
- 配管からガスが回れる場所
- 地層に溜まった酸欠空気が押し出される場所
- 溜まっている硫化水素が出てくる場所
他の配管とつながっていたり、洩れてくる恐れがある箇所。あるいは堆積物や含侵してしまう箇所などには注意しましょう。
酸欠作業主任者の作業内容
実際に作業前には、安全に作業する方法を決定し、対処する必要があります。
測定の結果、酸欠だとわかったらまず換気することです。
酸欠空気(窒素や二酸化炭素など)が流入しないこと、酸素が消費されないこと、新鮮な空気を送り続けることなどして、安全に作業できる環境を作りましょう。
空気呼吸器や送気マスクなどの保護具を使用せざるを得ないこともありますが、まずは酸欠状態の回避が最優先です。
測定に関する規定
測定に関しては、決められていることがありますので、必ず確認しておきましょう。
ポイント
測定を行ったときは、その都度、次の事項を記録して、これを3年間保存しなければならない。
- 測定日時
- 測定方法
- 測定箇所
- 測定条件
- 測定結果
- 測定…者の氏名
また、酸欠則では硫化水素濃度10ppmが管理上限の基準になっています。
ただし米国のACGIH(政府産業衛生専門官会議)など別のの機関が慢性中毒防止の観点から、5ppmを管理指標としている場合もあります。
換気
密閉された部屋では十分な換気を行うことができません。
酸欠の空気が排出され、きれいな空気と十分に入れ替えができるか、という視点で現地を確認していくことが大切です。
ポータブルファンの能力が適切か、劣化が無いか点検する、等の基本的なことも忘れずに。
特に作業場所の形状やガスの特性に応じて、どのように換気されるかを作業前に協議しましょう。
空気呼吸器などの保護具と注意点
酸欠主任者として、労働者が酸素欠乏症にかかることを防止するための器具または設備を点検する、使用状況を監視する、ということが求められています。
空気呼吸器は、ボンベなどを背負って空気を供給する救助用につかうものです。
訓練の時には、ボンベの空気がどのくらいの時間連続して使えるか、など実際に使用して試すことが重要です。
人を担いで呼吸が激しくなったら、またはマスクから少し漏れ出すぐらい空気を使ってみたりすると想定以上にボンベの空気の減り方が早いことに気付けるはずです。
ただボンベを担いで数呼吸して交替するような訓練では、実際の救助の役には立ちませんよ。
送気マスクの注意点
送気マスクとは、作業者へきれいな空気を送るための呼吸用保護具です。
呼吸に必要な量のきれいな空気を送ること、途中で空気の流れが遮断されないこと、隙間から酸欠の空気が入ってこないようにすることが大切です。
送気マスクの注意点
- 送気用の送風機が停止してしまう
- 高圧空気容器(ボンベ)の空気がなくなる
- エアラインマスクの接続を間違えて、窒素を吸い込んでしまう
- ホースが曲がる・切れる
- 空気の取り出し口から自動車の排気ガスなど一酸化炭素などを吸い込んでしまう
などの過去トラブルがありますので、注意です。
周囲の環境が変わりないように監視することが大切ですよ。
職場で役立てたいチェックリスト
酸欠作業を行う職場で、管理しておきたい項目一覧です。
担当する職場でチェックリストにして、確認するのも良いでしょう。
測定
- 作業開始前および作業再開時に酸素濃度測定が実施されているか
- 酸素濃度測定は酸欠作業主任者が行なっているか
- 酸欠危険場所の外からセンサーを垂らす等の方法で測定していますか
- 内部に立ち入って測定しなければならない場合、空気呼吸器等の呼吸用保護具を装着しているか
- 測定点は5点以上(水平、垂直それぞれ3点以上)測定しているか
- 作業する場所のすみずみまで安全に作業できるか測定できているか
- 測定記録は3年間保存されているか
測定機器管理
- 測定器は年1回以上、メーカーによる点検・校正が実施されているか
- 使用開始前点検および定期的な自主点検を実施しているか
換気
- 酸素濃度が21%以上となるように換気できているか
- 酸欠空気が滞留する場所がないか確認したか
保護具
- 空気呼吸器等は同時作業者の人数と同数以上備えているか(換気できない場所)
- 安全帯を使用しているか(墜落の恐れがある場所)
- 作業開始前に空気呼吸器、安全帯等の点検を作業主任者が実施しているか
- 酸欠危険場所で作業するとき、当該箇所を立入禁止としているか
作業主任者
- 酸欠作業主任者が選任されているか
- 作業主任者が不在の時の対応が実施されているか
- 作業主任者の氏名・職務は表示されているか
- 作業開始前に安全な作業方法を決定し、関係作業者に周知しているか
監視人
- 監視人を配置し、常時作業状況を監視しているか
- 異常時などに監視人と関係者の連絡方法が確認できているか
- 避難用具を準備できているか
- 作業者は酸欠特別教育を受けているか
- 空気呼吸器の装着、緊急時対応などの訓練を定期的に実施しているか
酸欠主任者は、責任ある立場
「酸素欠乏危険作業主任者とは?酸欠主任者の仕事をまとめる」についてお話してきました。
酸欠主任者は、工場や現場では欠かせない存在です。
職場の同僚がけがなく工事や作業を終えられるよう、努めていきましょう。
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