プロセス安全

化学工場の危険性とリスクアセスメントとは?その7つの方法を解説

化学工場の危険性とリスクアセスメントとは?その7つの方法を解説
「化学工場のプロセスの危険性とは何だろうか?
もっとも大きなリスクは確実に潰しておく必要があるのはわかるけど、モレなく抽出するのが難しいと感じるけど、どうしたらよいの?」

そんなお悩みをお持ちの方も多いと思います。

わたしは約10年生産現場で経験を積んできた中堅世代。そんなわたしが回答します。

石油コンビナートなどの工場での事故は、主に設備の起動・停止、保全作業中などいわゆる「非定常時」に発生しています。

そんな事故発生の原因=危険性について解説していきたいと思います。

本記事の内容

・化学プラントの危険性の例示集から学ぶ

・危険性の評価手法を紹介

ぜひ記事の最後までお付き合いください。

化学プラントの危険性

化学プロセスプラントでは、取扱危険性など種々の危険性があり、それを把握する必要があります。

取扱物質に起因する危険性

可燃性・反応性・事項分解性・毒性を有する危険性物質を有しています。

空気との接触による燃焼・爆発の危険性などもあり注意です。

不純物に起因する危険性

原料の不純物、活性物質の混入、反応釜に残存していた不純物などにより、異常反応が発生して事故につながる危険性があります。

操作特性に起因する危険性

昇圧・昇温・反応・分離・凝縮・蒸発などの複数の操作が行われることから、機器の故障または誤操作を引き金として事故につながる可能性があります。

物質の相変化に起因する危険性

物質の三態(気体・液体・固体)という相状態で操作されており、相変化に伴う危険性が存在します。

気体の凝縮に伴う危険性、液体物質の気化による体積膨張に伴う危険性、固体物質の析出に伴う危険性、など相変化もあなどることができません。

反応危険性

発熱を伴う反応器においては特に異常反応に対する予防や早期異常検知が必要です。

反応暴走の危険性

反応暴走とは、反応装置の内部でおきた発熱反応による温度上昇を制御不可能になった状態をいいます。

発熱反応に対する除熱能力不足の場合、除熱が正常に機能しない場合、原料の組成が異なる場合などに反応暴走の危険性が高まります。

反応暴走の危険性の高い反応は以下の4つです。

  • 酸化反応
  • 重合反応
  • 水素化反応
  • 付加反応

混色危険性

2種類以上の物質が混触することにより発熱・発火したり、爆発性混合物を形成する危険性のある組み合わせがあるので注意が必要です。

危険性のある物質についての情報をもち、その情報をもとにして適切な安全対策を講じていきましょう。

プロセスプラントのハザードの特定

化学プラントにおいては、ハザード(危険源)を漏れなく抽出していくことが大切です。

しかし一から見出すよりも、以下の表のようにシナリオ例から抽出したほうが効率的です。

様々な外部情報をもとに、シナリオを構築することが大切です。

カテゴリごとにハザードの例を紹介していきますね。

プロセス

プロセスプラントのハザード特定シナリオ例
ハザード(危険源)シナリオハザード
可燃性可燃性ガスを保有している容器に空気が漏れこんだ容器内に可燃性混合気が形成され、火災の危険性
反応性発熱反応プロセスの反応器において、冷却器の故障で温度が上昇した反応熱の蓄積により暴走反応の危険性
自己分解性有機過酸化物を保有する反応器の冷却システムが故障し、温度が上昇した有機過酸化物の分解爆発により容器破裂の危険性
自然発火性亭主時に脱硫反応器から取り出した硫化鉄を野ざらしの状態で放置した硫化鉄は自然発火性があり、空気と接触して燃焼する危険性
毒性毒性のある液体を貯蔵するタンクが腐食により開口した毒性液体の漏えい危険性
高圧高圧運転の容器と低圧運転の容器を連結している配管の調節弁が故障で全開となった高圧のガスが低圧の容器に流れ込み、低圧の容器が破裂する危険性
負圧常圧設計の容器を蒸気洗浄したのち、外部との縁切りのために閉止して整置した容器内部が冷却し、上記の凝縮による内圧が負圧となり、容器の負圧座屈の危険性
高温高温流体を冷却するクーラーの媒体が停止し、高温流体が冷却されず、機器の設計温度を超過した急激な高温流体の流入による熱衝撃でフランジ継手からの漏えい危険性。または機器の設計温度を超え機器損傷の危険性
低温-100℃の低温ガスのヒーター入口側配管はステンレスであったが、ヒーター出口側配管は常温使用の炭素鋼であった常温使用の炭素鋼配管に極低温ガスが流入し、低温脆性破壊の危険性
液レベル高圧縮機入口のノックアウトドラムで液面がオーバーフローしガス配管に流入した圧縮機が振動して損傷する危険性。可燃性ガスであれば、漏えいして着火火災
液レベル低ポンプ上流のドラムへ液体の流入が停止したドラムの液面低下が継続し、ポンプが空引き・損傷し、内部流体が漏えいする危険性

設備

ハザードリスト(設備)
小分類ハザードハザード状態ハザード事象
設備変更ウェザーシール取り替え通気性不良(温度上昇)ボルト締めつけ力低下
ウェザーカバー新設雨水侵入ボルト締めつけ力低下
ポンプ電動機取替振動への対処療法的処置設備破損
ガスケット変更トルク管理なしボルト締めつけ力低下
設備放出管(ガス放出)固形物の公出火災
移動容器移動中の落下ネックチューブの座屈
材質ステンレス鋼ガスケット応力腐食割れ漏えい、火災
炭素鋼ガスケット鉄カルボニル侵食ガス漏えい
溶接継手のブローホールエロ―ジョン、コロージョンピンホール開口
振動機器取付小口径配管の振動トップヘビー高サイクル疲労
温度高温保温材、フランジボルト締めつけ力低下
配管の熱変形指示構造の不適切低サイクル疲労
混相流水注入エロ―ジョン、コロージョン減肉開口

ハザードリスト(人)
分類ハザードハザード状態ハザード事象
管理計画変更(インターロック解除方法変更)誤操作インターロック不作動
腐食管理不良湿性硫化腐食開口(ピンホール)
運転温度管理運転最高温度での運転異常分解反応
作業ドレン抜き帯電静電気着火
ドレン抜き誤操作可燃物流出
ドレン抜き計画外作業可燃物流出
ドレン抜き開閉忘れ火災
縁切り水素の漏えい、滞留機器開放による爆発
縁切りドレン切り作業漏えい、火災
学識学識の不備地震荷重ブレース破断

物質

ハザードリスト(物質)
分類ハザードハザード状態ハザード事象
異物残留物除去不十分着火(可燃物)
付着物(ステンレス鋼の塩化鉄)不動態被膜の除去塩素化反応
反応副生物の付着物(コーキング)温度上昇クリープ割れ
重合物ポンプ冷却配管の閉塞発熱、自己分解爆発
運転非定常運転(インターロック)非定常運転(インターロック解除)異常反応(温度上昇)
非定常作業(廃棄)管理不十分着火(静電気)
非定常運転(緊急停止)温度不十分異常反応(温度上昇)
学識の不備地震荷重ブレース破断

 

ハザード特定解析手法7つ

ハザード特定のための解析手法について紹介します。

リスクの定量評価、すなわちリスクアセスメント手順については、ISO31000に詳細な流れが説明されています。

ここでは代表的手法について紹介します。

HAZOP

プロセスプラントのラインまたは機器の一つひとつに着目し、流量、温度、圧力、液レベルなどのパラメータの正常状態からのずれを想定します。

機器故障、誤操作などを洗い出し、プラントへの影響を解析し、ハザードを特定します。

化学プロセスの評価では最も主流の方法です。

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What-If

What-Ifは「もし~~であるならば」という質問を繰り返すことで、設備面・運転面のハザードを特定し、安全対策を検討することでシステムの安定化を図る手法です。

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FTA(Fault tree analysis)

危険事象を出発点に、ツリー上に原因となる機器、部品を抽出し、機器・部品の故障確率をあたえ、発生確率を解析する方法です。

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ETA(Event tree analysis)

可燃性液体の流出といった引き金事象が、どのように拡
大していくかを、安全・防災設備及び緊急対応の成功と
失敗を考慮して過程を解析し、最終的に到達する災害事
象をツリー状に表現する方法です。

FMEA(Failure mode and effects analysis)

システムを構成する機器に着目し、その機器に考えられ
る故障モード(例えばバルブでは、故障全開、故障全閉、
操作不能など)をとりあげ、故障がシステムに及ぼす影
響と安全対策を解析する手法です。

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Dow方式

取り扱う物質の危険性、温度、圧力といった操作条件の
危険性、装置固有の危険性などにより機器ごとの評価点
をつけ、危険指数を算出する。危険指数の大小により機
器の相対的な危険度を評価する手法。

発熱反応器、高圧容器など、危険性を数値でスクリーニング評価することができます。

チェックリスト方式

あらかじめ用意された質問リストに従い、安全面での配
慮がなされているかをチェックしていく方式です。

大企業ではマニュアル化され、この形式でチェックすることが多いのではないでしょうか。

リスクの解析と評価

実際にハザードを特定したら、その事故の発生頻度と影響度の解析を行います。

リスクの解析

リスクの人的被害と経済的損失の大きさでランク分けを行うのが一般的です。

例えば最終事象が工場の火災・爆発などになるときには、特に前もって備えなければならない事象でしょう。

プロセス事故と影響度レベル
影響度安全/人の健康火災または爆発潜在的な化学品の影響地域/環境への影響
オフサイト死亡事故直接コストが1000万ドルを超えるオンサイト・オフサイトでかなりの負傷者、死者のでる可能性のある化学品放出数日間のメディア報道、250万ドルを超える環境改善コスト
オンサイト死亡事故直接コストが100万ドルから1000万ドルの事故化学品の放出が会社敷地内に止まった事故地域メディア報道か全国メディアでの簡単な報道、100~250万ドルの環境改善コスト
プロセス事故に関係した従業員・関係請負の負傷休業災害直接コストが10万~100万ドルの事故オフサイトで負傷の可能性のある化学品放出地域メディアによる報道、100万ドル未満の環境改善コストが必要
プロセス安全事故に関係した従業員または関係請負に対し、応急手当が必要な事故直接コストが2万ドル~10万ドルの事故化学品の放出が二次防護施設内、または装置内に留められた事故急激な環境影響に対する短期的な改善対応、長期的な改善コストや会社の監視は不要

リスクの重大さだけでなく、起こりやすさもあわせて解析します。機器の故障確率などから求めるとより定量性が増しますよ。

リスクの起こりやすさの分類
起こりやすさ発生頻度
A1年に1回以上発生
B1~10年に1回発生
C10~100年に1回発生
D100~10000年に1回発生
E10000年に1回以下発生

リスク評価

先ほどまでで解析してきたリスクの影響度と起こりやすさを使って、リスクレベルを評価します。

リスクマトリックスの例
起こりやすさ
ABCDW
影響度11124
12334
23444
44444

最後に、リスクレベルが許容できるか否かを、以下の表から判断します。

リスクレベル種類必要なリスク低減策
1Unacceptable(許容不可)一定期間(例えば6か月)以内に工学的または管理的なリスク低減対策をとり、レベル3以下にする
2Undesirable(望ましくない)一定期間(例えば12か月)以内に工学的または管理的なリスク低減対策をとり、レベル3以下にする
3Acceptable with controls(制御することにより許容可能)適切な手順または管理方法を確立する必要がある
4Acceptable as is(許容可能)特にリスク低減措置は必要なし

リスクアセスメントの詳細は、高圧ガス保安協会の「リスクアセスメントガイドライン」を参照してください。

まとめ

今回は「化学工場の危険性とリスクアセスメントとは?その方法を解説」と題してお話してきました。

化学プラントは常に危険と隣り合わせ。かといってすべてのリスクに怯えていたら生産活動などできません。

「許容できる安全」を確保した土台の上に生産があることを心がけ、リスクアセスメント手法を活用していきましょう。

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  • この記事を書いた人

けびん

30代前半、製造現場の最前線で管理者を務めています。 文献や実践から得られた学びをこのブログを通じてみなさんと共有していきたいと思います。

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