ヒューマンエラーを低減したいけど、どんな能力を伸ばせばよいのだろうか?
生産現場における作業者や管理者は、リスクのある状況に向き合う時にどんなステップを踏めば抜けなく対処できるだろうか?
そう考える方も多いかと思います。
この記事では、生産現場の最前線で管理者をつとめるわたしが、ノンテクニカルスキルについて解説していきます。
この記事の内容
・ノンテクニカルスキルにおける「状況認識」と「意思決定」能力の概要がわかる
・意思決定の4つのモデルの特長(利点と欠点)がわかる
クリックできる目次
ノンテクニカルスキルとは?
ヒューマンエラーを減じるために、テクニカルスキル(専門的な技術的知識)を補ってエラーの発生を最小限に抑えるための「ノンテクニカルスキル」に注目が集まっています。
また生産現場のようなハイリスクな環境でのチーム活動に必要な要素を分類していくと、以下の6つのカテゴリーに分かれることが分かっています。
産業ごとに多少のカスタマイズは必要ではあるものの、これらを訓練し身に付けていくことが必要です。
ノンテクニカルスキル「状況認識」とは?
状況認識とは、あなたの周りで起こっていることを十分わかっていること、と定義されています。
油田掘削事故の分析を例にとると、「状況認識」という言葉自体は使わなかったものの、状況認識がが欠如したオペレーターたちは以下のような言葉を口にしています。
- わたしは・・・だとわかっていなかった
- わたしは・・・ことに気付かなかった
- わたしは・・・には意識が回らなかった
- わたしは・・・が起こったとき、非常に驚いた
- わたしはそのとき・・・をしようと忙しかった
- わたしは・・・であると思い込んでいた
事実や現象を正しく認識することは、人間の大脳の情報処理能力や記憶に関わってくるものであり、そのプロセスを理解する必要があります。
状況認識の3つのレベル
状況認識には「収集」「理解」「予測」の3つのレベルが存在します。
状況認識「収集」
収集とは、情報の収集のことを指します。
作業者は、従事しているタスクにおいて、作業環境の状態と、タスクの進捗を監視するために、自身の周囲から情報を集めています。
とりわけ緊急事態への対応時には、この情報収集スキルに依存する面が非常に大きく重要な位置づけとなります。
情報収集段階でのエラーが起こる理由は以下の通りです。
- データが手に入らない
- データを検出/知覚できない
- データを探索または観察しない
- データを誤認する
状況認識「理解」
理解とは、収集した情報に基づいて現在の情報を解釈することを指します。
作業者は機器から得られるデータ、触手による感覚、など収集した情報を材料として、情報の流れを認識し、その意味を理解します。
主なエラーの要因として、確証バイアスがあります。
まず状況は正しく認識できたものの、その意味づけが誤っており、結果的に事実を曲げてまでして意味づけを正当化してしまうような場合です。
状況認識「予測」
予測とは、将来の状態を予測することです。
状況に関する情報収集・理解をしたうえで、過去の経験によって蓄積された知識を用いることで今後状況がどのように展開していくかを予測することができます。
この予測があることで、意思決定を正しくお粉ることに繋がるのです。
状況認識がうまくいっていない時の兆候
以下の状況に陥っているときには注意が必要です。
- 曖昧さ:2つ以上の情報源からの情報が一致しない
- 固執:他のことを除外するために、1つのものにのみ焦点を合わせる
- 混乱:状況についての疑念や困惑
- 必要な情報の欠如
- 重要なタスク継続の失敗
- 所定のチェックポイントや目標を達成できないこと
- 物事がうまくいっていないとのいやな直感
ノンテクニカルスキル「意思決定」とは?(Decision-making)
意思決定とは、ハイリスクな仕事において、複数の選択肢を立案し、最も安全に遂行できるケースを選択するスキルを指しています。
前述の状況認識という継続的なモニタリングは環境や事象に注意を払い続けることですが、意思決定段階では多くの意識的な認知力が必要となります。
たとえ1000の事象が起きても、そのうち100を知って、10に取り組むことしかできないからです。
したがってまずは認知した状況の側面に気づき、理解し焦点を当て「問題を認識する」ことが重要となります。
意思決定の4つのルール
問題を認識したあとには、状況判断の必要性を受けて、対応の方針を選択します。
その意思決定の方法には主に4つのタイプがあります。
- 認識(直感)主導型
- ルールベース型
- 比較選択型
- 創造的意思決定型
直感(経験)に基づく意思決定
直感に基づく意識って意図は、過去に経験した同じような出来事への対応を思い出せることで成り立っています。
いま認識している状況と関連性がある過去の行動を記憶の中から素早く引っ張り出すことであり、本能的・瞬発的な対応です。
利点 | 欠点 |
---|---|
非常に迅速 | ・経験を必要とする |
・意識的思考はほとんど不要 | ・判断根拠の説明が難しい |
・実行可能で十分な選択肢をだせる | ・確証バイアスが発生しやすい |
・ストレスの悪影響をうけにくい |
ルールに基づく意思決定
ルールに基づく意思決定は、状況の正体を突き止めて、あてはまる規則や手順を思い出すかマニュアルを調べることです。
生産現場の作業員たちは、何か行動をとる前にマニュアルを確認する必要があり、ほぼ必ずといっていいほどこのパターンの意思決定を踏むことになります。
しかし間違った手順書や古い版の手順書を選択してしまった場合、いままで直面したことの無い場面に対しては無力となります。
利点 | 欠点 |
---|---|
初心者に適している | マニュアルを調べる場合には時間がかかる |
ルールを知っていれば素早く行動できる | ルールや手順が無い場合がある |
「定められた手順に従った」と説明しやすい | スキルを低下させる |
各ステップの理由を理解する必要がない | 各ステップの理由が理解できない |
比較に基づく意思決定
選択肢を比較するこの方法は、分析的意思決定とも呼ばれることがあります。
問題が特定できたら、記憶、マニュアル、所属員などから、とりうる行動を立案し、その中で比較して、状況にもっとも適切なものを選択します。
注意深く評価ができた場合には、最適な解決策に達する可能性が高い一方で、時間がかかりやすい方法です。
最初に思い浮かんだことを選択しやすくなる、という心理的バイアスの影響を受けやすい点を注意しましょう。
利点 | 欠点 |
---|---|
とるべき行動を十分に比較できる | うるさい、気が散る環境には不向き |
根拠を示せる | 時間がかかる |
より最適な策を生み出せる | ストレスに影響される |
種々の技法が利用できる |
創造に基づく意思決定
創造に基づく意思決定は、不確かな状況において、いままでにない行動パターンを考えて解決する方法です。
したがってハイリスクな生産現場では、一般的な選択肢で対処していくほうがより安全であることが多いです。
ただし以前の経験や予測とはまったく異なった状況に陥った時には必要となるため、十分な時間をかけて立案した行動パターンを評価して取り組むほうがよいでしょう。
利点 | 欠点 |
---|---|
不慣れな問題に対して解決策を生み出せる | 時間がかかる |
新たな解決策を生み出せる | 試されていない方法である |
ストレス下では困難 |
まとめ
今回の記事はいかがでしたか?
状況認識と意思決定について述べてきましたが、どちらもリスクの高い生産現場においては重要なスキルです。
意思決定の妥当性は、チームの力量や発生時の状況における制約などによって定まります。
チームワークやリーダーシップ等の組織力も踏まえて、適切な判断を下していきましょう。
-
ノンテクニカルスキルとは?生産現場で必要なチームワークを高める方法について解説
続きを見る
-
ノンテクニカルスキルとは?生産現場で必要なコミュニケーションの4つの能力を解説
続きを見る