
・マニュアル化しきれていないノウハウを持っている人に仕事が集中しており、なんとか変えていきたい
そんなお悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。
わたしが勤める生産現場でも、過去は先輩のノウハウの見よう見まねや口頭指導によって作業の質が保たれてきました。
ところがミスやトラブルが続き、マニュアル化へ舵を切ってきた経緯があります。
そんな経験をもつわたしが、悩みに応えるべく考え方の基礎となる「SECIモデル」についてお話しします。
この記事を通じて、お伝えしたいことは2つ
この記事でお伝えしたいこと
- 技術伝承に使えるSECIモデルとは?
- 実際に技術伝承する際に注意するポイントは?
これらについてまとめましたので、ぜひ最後までお付き合いください。
SECIモデルとは?その定義
SECIモデルとは、野中郁次郎氏が提唱した組織的知識創造のモデルのことです。
以下の4つの知識変換モードからなり、プロセスがぐるぐると循環していくことで個人と組織の知識が創造される、という考え方です。
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1共同化(Socialization)
個人が同じ時間や空間の中でリアルな体験を共有することでスキルを共有したり、他人の立場に立つことでその状況をその人がどう見ているのかを共有したりするプロセス。
身体・五感を駆使し、直接体験を通じた暗黙知を獲得する段階です。
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2表出化(Externalization)
お互いに共感された暗黙知を、対話や思慮によってグループの知識として統合し、明示していくことで形式化していくプロセス。
対話や思考を通じて自分の暗黙知を言語化していく段階です。
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3連結化(Combination)
表出化によって作り出された新しい形式知同士や、新しい形式知と既存の形式知を連結することによって新しい知識を創り出すプロセス。
作り出した形式知をまとめ、体系化していく段階です。
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4内面化(Internalization)
形式知を実践することによって、新たな暗黙知を獲得していくプロセス
形式知を実際に使って試してみて、個人が暗黙知として理解・学習していく段階です。
これら4つのプロセスを循環させていく基盤・組織風土を定着させていくことが大切です。
暗黙知と形式知とは?
このモデルの中で登場する、暗黙知と形式知というのが重要なポイント。
暗黙知
- 言語・文章で表現するのが難しい主観的・身体的な知識のこと
- 特定の文脈ごとの経験の反復によって身につく思考スキル(思い・メンタル)や行動スキル(ノウハウ)
形式知
- 言語・文章で表現できる客観的・理性的な知識
- 到底の文脈に依存しない一般的な概念や論理(理論・問題解決手法・マニュアル・データベース)
暗黙知の種類とは?
暗黙知とひと言でいっても、様々な段階が存在します。この暗黙知について説明します。
- 判定型暗黙知:過去の経験から確率的に判定基準を考えて、判断や診断を行う知識
- 加減型暗黙知:より良くするために基準をもって加えるか、減じるか、という判断を行う知識
- 感覚型暗黙知:目視や感触などの感覚に依存して判定する知識
- 手続型暗黙知:手順としてではなくストーリー・物語として内容を理解する知識
暗黙知の階層
暗黙知を形式知化していく中でも、暗黙知には階層があり、その階層によって対処のしかたが変わります。
暗黙知の階層と対処
- 第1層:外から観察可能で、記述が容易であるもの。⇒見て、言語化する
- 第2層:見ることが困難で、言語にできる。⇒インタビューで言語化する
- 第3層:作業者が自覚しないが、引き出して言語にできる。⇒仮説を立ててインタビューする
- 第4層:作業者が無意識に行うもので、言語にはできない。インタビュアーが体得して言語化する
上記の通り、4層目までいくと非常に言語化が難しい暗黙知となります。
例として、パン焼き機のエピソードが有名です。パンのこね方でどの工程がもっともおいしさに効くのかはパン職人たちは言語化できていませんでしたが、一つずつ実体験から検証することで「ねじり」が重要であることをつきとめた、というものです。
SECIモデルを使用するポイント
SECIモデルを意識した組織の技術伝承を進めるにあたってのポイントを以下に記します。
実体験をできる場を提供すること
会議、対話、現場での実体験、映像・文書、データベース、など様々な場面で各個人が体験できる環境を構築し、暗黙知を生み出せる状況を作りましょう。
そのためには日ごろの働き方の中で教育や訓練に割く時間を十分確保できるようにすることが大切です。
形式知化のやり方についてグループ内で議論すること
形式知化する文書の書き方や様式、解像度(どこまで書くか)についてよく議論しておくことをおすすめします。
ある特定の人の主観で形式知化してしまうと、当たり前のことが書かれすぎていて読みづらい、逆に情報が少なく再現することができない、なんてことが起こりえます。
その時の組織の力量に応じて、形式知化しなければならない程度は変わってくるものと思います。
どの作業にも共通する基本的な作業・行動については手順書とは分けてまとめておくと、手順書自体をシンプルにすることができるでしょう。
形式知化したものを教育・評価する時間を確保すること
せっかく形式知化したものを書棚やデータベースへ眠らせてしまっては宝の持ち腐れです。
新たに加入したメンバーがまとめてきた形式知を必ず学習するような教育カリキュラムを組みましょう。
実際に困ったときに形式知を取り出せる状態に整備しておくことも、新メンバーにとって有用です。
SECIモデル活用例
SECIモデルが根付いている会社の事例を2つほど紹介します。
トヨタ
「カイゼン」という思考があるように一時の成功に定住せず、より高い目標を掲げて、つねに改善するしくみが徹底されています。
また先入観を持たず、白紙になって生産現物を観察せよ。対象に対して「なぜ」を5回繰り返せという考え方(5なぜ活動)も定着しています。
これらの現場での観察から暗黙知を表面化させ、カイゼンし形式知化していく流れができているものと思います。
ミズノ
このスポーツシューズメーカーにおいては、技能検定制度やマニュアルを用いた教育を行っており、暗黙知の一部を形式知化することに成功しています。
比較対象として調査された鍛造工場や骨董品の工場と比べ、形式知化されている割合が非常に高かったようです。

形式知と暗黙知の占める割合比較(高知工科大学マネジメント学部 松原氏)
ちなみに骨董品などの美術品制作においては、美的センス等の伝承不可能な技術が主であるため、形式知と暗黙知に当てはまる部分が少なくSECIモデルは適用できません。
まとめ
今回は「SECIモデルとは?現場の技術伝承を推進するための考え方を解説」と題してお話してきました。
製造現場の場合、「労働災害ゼロ・保安事故ゼロ」という大きな目標に対して、技術の伝承を進めていくことになります。
SECIモデルに基づき、実践(HOW)と対話(WHY)を繰り返し暗黙知と形式知を蓄積し、組織の知恵を高めていきましょう。